大判例

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大阪高等裁判所 昭和26年(ネ)276号 判決

控訴代理人は原判決中控訴人勝訴部分を除き其の余を取消す。被控訴人の控訴人に対する神戸区裁判所昭和二一年(イ)第九号和解事件の執行力ある和解調書正本に基く強制執行は許さぬ、訴訟費用は第一、二審共被控訴人の負担とする、との判決を求め、被控訴代理人は主文同旨の判決を求めた。

当事者双方の事実上の陳述は、いずれも原判決摘示と同一であるから、茲にこれを引用する。

<立証省略>

三、理  由

被控訴人が控訴人に対し控訴人主張のような内容の和解調書の執行力ある正本に基いて動産差押を為し、更に家屋明渡の強制執行をも為さんとしたことについては当事者間に争がない。而して本件和解調書の作成せられるに至つたいきさつに対する当裁判所の判断は原判決挙示の証拠の外原審証人源治きみ乃、村山セイの各証言に徴し成立を認め得る甲第五号証を附加する外原判決に示したところと同一であるからこれを引用する。控訴人本人の当審における供述中右認定に反する部分は措信できない。又右和解調書の内容が裁判所の和解契約の内容と一部分喰い違つているが、延滞賃料として昭和二十一年十二月分より翌二十二年六月分とを加算した部分が無効であるに止まり、其の余の部分についてはこれを有効と認める理由も亦原判決に示したところと同一であるからこれを引用する。

次に控訴人は右和解契約について不履行はないと主張するから此の点について観るに前示甲第五号証と原審証人源治きみ乃、村山セイの各証言原審並当審における控訴人本人の供述を綜合すると訴外村山清二は昭和二十年十一月二十日控訴人と前示裁判所の和解成立後控訴人方へ賃料並延滞賃料の取立に赴き、昭和二十二年八月二日頃迄の間に控訴人は同年七月分迄の賃料と延滞賃料の月賦金合計二百円の支払をしたところその後村山が取立に来なくなつたので控訴人は数回同人宅へ賃料及月賦金を持参したが、同人が病気の為め快復後取りに行くとの理由で受取つてくれなかつたので、その後は賃料及月賦金の支払を為さなかつたこと(従つて延滞金の残額は二十円である)を認定することが出来る。被控訴人は右村山には右賃料及延滞金を被控訴人の為めに受領する代理権はなかつたと抗争し右代理権に付てはこれを認め得る資料はないが、前段認定の如く同人は被控訴人の代理人として控訴人との間に本件店舗賃貸借について折衝し、叙上のような裁判上裁判外の和解を為したものであるから、その後引続き控訴人方へ和解契約の定める賃料及月賦金の取立に赴いた同人によしんばその受領について代理権がなかつたとしても、控訴人に於て同人にその代理権があるものと信じるについて何等過失のないものと謂うのを相当とするから、右支払は民法第百十条によつて有効と解すべきである。而して本件賃料及月賦金は元々持参払の約であるがかような継続的な給付債務に於て前示のように債権者の側から引続き取立に赴き、更に債務者が数回持参したのに対し後日取りに行くからと称してその受領を拒んだような場合に於て控訴人が昭和二十二年八月分以降の賃料及月賦金残額二十円を持参して支払はなかつたとしても、控訴人に不履行の責を負わすことは出来ない。従つて其の不履行を前提とする本件和解調書に対する執行文の付与は当時に於いては違法であること勿論である。然しながら成立に争のない甲第三号証によると昭和二十三年十月十二日被控訴人の委任を受けた執行吏が控訴人方に於て本件和解調書の執行力ある正本に基いて有体動産の差押を為す際先ず控訴人の妻源治きみ乃に対し請求賃料合計八百六十円の支払を催告したことは明らかで同日迄に支払期が到来している賃料並月賦金は前示控訴人の支払つた分を差引くと昭和二十二年八月分以降同二十三年十月分迄の賃料合計三百円と月賦金残額二十円総計三百二十円であつたから、之に対し金八百六十円の催告は過大ではあり且催告を受けたのが控訴人ではなく控訴人の妻ではあつたが反証のない本件に於ては控訴人も亦当日被控訴人から右賃料及月賦金の催告を受けた事実を諒知したものと認めるべきで、前示請求金額の相違することも未だその催告を無効とすべき程の過大ではないから同日以後控訴人に於てはこれについて不履行の責を免れない。従つて控訴人がその支払を為さなかつたことは弁論の全趣旨に徴し明らかである以上本件和解調書の定める「賃料並分割金の支払を一回にても三日以上怠りたるとき」に該当し、当然賃貸借は解除となつたものであるから結局右執行文付与についての瑕疵が治癒せられたもので、現在に於ては本件債務名義に基く強制執行は昭和二十二年七月分迄の賃料と延滞月賦金中残存の金二十円(月賦支払金を延滞月に順次充当するとこの二十円は昭和二十年十一月分賃料にあたる)を除く爾余の分とについてはいずれも既に支払済だからこれを許すことは出来ないが、其の他の部分についてはこれを排除するに由がない。

仍つて之と同趣旨にいでた原判決は相当であり、本件控訴は理由がないから民事訴訟法第三八四条、第八九条、第九五条を適用して主文の通り判決する。

(裁判官 吉村正道 林平八郎 太田外一)

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